大判例

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札幌地方裁判所 昭和39年(わ)895号・昭39年(わ)1027号・昭40年(わ)33号・昭39年(わ)883号・昭40年(わ)38号・昭39年(わ)871号・昭39年(わ)892号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、被告人本郷清に対する公訴事実中「同被告人は、対馬健二と共謀のうえ、昭和三九年一月八日頃札幌市南一三条西七丁目稲木仙英方において、賭博場を開帳し、渡辺秀夫ら二十数名の賭博者を同所に集合させ花札を使用して金銭を賭けさせて俗にバツタと称する賭博を行なわせ、賭博者から寺銭の名目で金銭を徴収して利益を図つた」との点について検討を加える。

二、まず対馬が昭和三九年一月八日前記稲木仙英方において賭博場を開帳し、賭博者から寺銭の名目で金銭を徴収して利益を図つたことはさきに罪となるべき事実第四の一の(一)において認定したとおりである。

しこうして、被告人本郷の検察官に対する≪中略≫供述調書によると、対馬は、越路家の盆開きと称して賭博場を開帳し、小遣銭を獲得しようと企て、同年一月五、六日頃被告人本郷方の浴場において、入浴中の同被告人の背中を流しながら、「盆開きをしたいのですがどうでしようか」等と相談を持ちかけたところ、同被告人は「うん。折詰でも頼んでやればいいさ」と返事をしたこと、そこで、対馬は同被告人方の電話を使用して同被告人の名前で賭客に対する接待用の折詰を註文したこと、賭博終了後の同月一〇日過頃対馬はウイスキー(ジヨニーウオーカー赤ラベル)六本(価格合計二五、八〇〇円)を持つて同被告人方を訪れ、同被告人に対し「盆開きがすみ客も三〇名位集まりました。これを持つて来たので飲んでください」等といつてウイスキーを同被告人に渡したこと、対馬の註文した折詰の代金一〇、五〇〇円は同年二月他の代金と一括して同被告人の内妻本郷栄子振出名義の小切手で支払われたことを認めることができる。

三、そこで、右の事実から被告人本郷が対馬の賭博開帳図利の犯行について共同正犯の責を負うべきかが問題となる。

元来、賭博開帳図利罪は利益を図る目的で自ら主宰者となつてその支配下に賭博場を開帳することによつて成立するものである。

さきに、認定したとおり被告人本郷は対馬が賭博場を開帳することを承認しているのであるが、ただ対馬の賭博場開帳を承認したからといつて賭博開帳図利罪の共同正犯が成立するものでないことはいうまでもない。そしてさきに認定した事実によつては、被告人本郷が利益を図る目的を有していたこと、同被告人が自ら主宰者となつて賭博場を開帳したことを認めることはできないのである。対馬が同被告人にウイスキー六本を渡し、これは同被告人が賭博場開帳を承認したことに対する謝礼の意味を持つものであると認められるのであるが、同被告人が当初から利益を得ることを期待して対馬に承認を与えたと認めるにたる証拠はない。また対馬が同被告人の名前で折詰を註文し、この代金が同被告人の内妻振出名義の小切手で支払われているが、この事実をもつて同被告人が賭博場を開帳したとの証拠となるものでなく、場合によつては同被告人に対馬の賭博開帳図利罪についての従犯が成立するにすぎないのである。

四、たとえ、博徒社会の慣習として対馬がその親分でありいわゆる貸元と呼ばれる被告人本郷の承認なくしては賭博場を開帳できない立場にあつたとしても、ただ同被告人が対馬の賭博場開帳に対し承認を与えただけでは自ら主宰者となつて賭博場を開帳したといえるものでなく、いかに博徒の親分の立場にあるからといつて、その輩下の者の行つた賭博場開帳につきそれの承認を与えただけで法律上共犯としての責任を負うべきものでないことは当然である。

従つて、以上説示したことから明らかなように、対馬の行つた賭博場開帳図利の犯行につき被告人本郷に共同正犯としての責任を負わせるべき証拠はないといわなければならない。

五、被告人本郷の判示第一の一、二の犯行と本件との差異が問題となるのでこの点につき付言する。

まず、前掲判示第一の一の事実に関する各証拠を総合すると、細矢茂雄は、被告人本郷の本州方面への旅行費用を捻出するため賭博場を開帳しようと企て、同被告人にその旨を話して承認を得たうえ、準備万端を整えて判示のとおり龍田旅館において賭博場を開帳したこと、その際、同被告人は賭博場において所持金のなくなつた賭客に貸付けるいわゆる回銭として一〇〇万円を細矢茂雄に渡し、また自ら龍田旅館に赴き賭博場にも顔を出していること、細矢茂雄は犯行の翌朝同被告人に結果を報告し、その後寺銭を同被告人に渡していることを認めることができる。

また前掲判示第一の二の事実に関する各証拠を総合すると、細矢茂雄は、被告人本郷に対する債務を返済するため賭博場を開帳しようと企て、同被告人にその旨を話して承認を得たうえ、準備万端を整えて判示のとおりパレスホテルにおいて賭博場を開帳したこと、その際同被告人は自らパレスホテルに赴き賭博場にも顔を出したこと、細矢茂雄は犯行の翌朝同被告人に結果を報告し、その後同被告人に寺銭を渡していることを認めることができる。

以上の諸事実によれば、右二回の犯行はいずれも被告人本郷に寺銭が帰属することを予定して行われたものであつて、同被告人もこれを十分了知していたものであり、結果的にも寺銭は同被告人に渡されているのである。また同被告人は賭博場の開張されている旅館に宿泊し、自ら賭博場にも臨んでいるのであつて同被告人は細矢茂雄の賭博場開帳に承認を与えたのみにとどまらず、自ら利益を図る目的をもつて、細矢茂雄とともに主宰者となつてその支配下に賭博場を開帳したと認めざるを得ない。ただ現実に賭博場開張の準備を整え、賭博場において現実に采配を振るつたのは細矢茂雄であるが、これをもつて同人の背後に控え、同人をして右のような行為をさせた被告人本郷の共犯としての刑事責任を左右することはできない。

以上のように判示第一の一、二の各犯行における被告人本郷の立場と、対馬の前記犯行における同被告人の立場とは明らかに異なるのであつて、同被告人につき、判示第一の一、二の各犯行について共同正犯が成立するからといつて、本件について共同正犯が成立するものでないのである。

六、結局被告人本郷に対する前記公訴事実については犯罪の証明が十分でなく、犯罪の証明がないことに帰するから刑事訴訟法第三三六条後段により右公訴事実につき同被告人に無罪を言渡すこととする。(神垣英郎)

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